「…さい…起きて……起きてください」
女性の声に俺は目を開けた、そこにいたのは青い髪の少女
「おはようございます、シエルさん」
「遅いですよ君、ほら早く起きてください」
腕を掴み俺の体の上半身を持ち上げた
「ほらほら君、急いで」
「わっ、分かったからシエルさん引っ張らないで」
寝ぼけている俺に急に前から強く引っ張られ眠気がいっきになくなった
なぜ俺が彼女と同じアパートに暮らしているか、それは俺の3つの条件の1つに入っていた
「条件?」
あの夜の公園で俺はシエルに3つの条件、というより3つの要求をした
「1つ目は衣食住の保障です。この世界に俺の住む場所、ましてや知り合いなんていない…だから、せめて住む場所だけでも」
「分かりました、2つ目は?」
最後まで話を聞かずあっさり2つ目に入ったシエルになんとなくこれはOKなのだろう
「2つ目は俺から情報をあまり聞かないこと」
「それは却下します」
1つ目の要求とは違い険しい目つきで彼女は反対した
「確かに俺の情報は絶対ではないけどほぼ合っていると思います。だからこの情報を誰かに全て知られてしまえばこの先の出来事が変わってしまう」
俺が彼女にある程度教えてしまえば彼女の考え方が変わる
変わってしまえば俺の知っている月姫のストーリーとは違う話しになる、そのことぐらいは分かっていた
それはそれで面白い、だけど話しが変われば俺は必要となくなり彼女との条件も消えてしまう
「それでも最小限ですが教えるつもりはあります」
これで契約を破棄されてしまえばこの町で生きていく事が出来ないだろうと俺は思った
「そうですね…確かにあなたが知っている情報を多く知ってしまえばあなたの情報が変わってしまうかもしれませんね」
2つ目の要求もなんとか聞いてもらえた、そして3つ目だが
「あと少しで朝ご飯ができますから顔でも洗って待っていてください。あっ、洗面所は奥の方ですから」
「分かりました、使わせてもらいます」
3つ目はシエルの近くになるべく置いてもらうこと
彼女が好みとかそんなあまい考えではない、あの夜俺は確かに自分が無力だと痛感したからだ
顔を洗い終え鏡で自分の顔を見たが少しやつれている気がした、無理もないか今起きていることさえも夢でないのかと思ってしまうぐらいだ
部屋に戻るとそこには俺が寝ていた布団が消え小さなテーブルが1つあった
「さっ、朝ご飯ができましたよ」
笑顔で言う彼女の持つおぼんから胃を重くしそうな独特のにおいが鼻に入ってきた
(このにおいって…やっぱり)
朝ご飯を作ってくれたシエルだが…予想通りの食べ物が目の前にあった
「あの…朝からカレーライスですか?」
「嫌なら食べなくてもいいですよ〜、ちゃんとご飯は作ったんですから条件をやぶってはいませんから」
別にカレーが嫌いではない…けどさすがに朝からは
しぶしぶ俺は彼女の作ったカレーライスを一口食べた
「あっ、おいしいですね」
「そうですか?あまり人に食べさせたことなかったので嬉しいですよ。それなら夜も腕によりをかけて…」
シエルの言葉からして夕飯もカレー類だ…それはちょっとな
「夕飯は俺が作りますよ、朝ご飯を作ってくれたお礼に」
「えっ、本当ですか?それなら夕飯はお願いしますね」
ハイペースでカレーを食べ終えおかわりするシエルに俺はそれを見ているだけで腹が満腹になりそうだった
「さて、話しが変わりますけど」
朝ご飯も食べ終わり片付けも終わった所でシエルが俺に話しかけてきた
「君が話した条件を私は守っていますが、わたしが君にだした条件2つ、覚えていますか?」
「もちろん覚えてます、約束は忘れませんよ」
俺が彼女にだした条件を成立させる際に彼女からも条件をだしてきた、まず1つは
「1つはシエルさんの手伝いをするんですよね」
「はい、この事件はわたし1人でもとくに不自由はないのですが。しかし、力を貸してもらえるのであれば使わない手はないですから」
彼女には言えないがこの猟奇事件を彼女1人で終わらせることが出来ない。それは主人公、遠野 志貴がどこかしら関与しているからだ
シエルの手伝い、それは遠野 志貴を観察し特別おかしなことがあったら彼女に話す。それが1つ目の条件だった
これは俺の知っている月姫の情報ではないのでこの条件を飲んだ
「もう1つは俺も一緒に学校に登校する…でしたよね」
そう、俺は遠野 志貴達が通う高校に入学しなくてはならなくなった
現実の世界なら今頃夏休みに入ったばかりで楽していたが
「はい、君は遠野 志貴と同じ2年生として生活してもらいます。君は聞いたところあなたの世界でも高校2年生だったんですからちゃんと勉強に励み遠野 志貴の監視をして下さいね」
「まぁ、それはいいんですけど…制服とかはどうするんですか?」
「今日はその制服で登校してもらいます、今日の夜にはちゃんと制服やら教科書が届くと思うので明日から届いた制服を着てください」
用意は出来てるってことか、だけど今のシエルの話し方だと多分俺は遠野 志貴と同じクラスだと思う
まぁ、彼女なら暗示をかけることができるから簡単だと思うが
勉強しながら遠野 志貴の監視って、明らかに遠野 志貴が俺の目で見える範囲にいるってことだろうし
「それじゃあ早いですが学校に行きましょう」
時計を見るとまだ7時を少し過ぎたぐらいだった
「そうですね、先生とかに挨拶をしなければいけませんよね」
俺はシエルと一緒にアパートをあとにした
「あっ、君がこれから住むアパートですが幸いわたしの部屋のお隣さんが空いていたのでそこで食事以外はそこで暮らしてください」
「じゃあ夕飯の時はシエルさんの部屋に行けば?」
「はい、料理器具とかはわたしの部屋に揃ってますから。それと私の部屋の鍵を渡しておきますね」
そういうとシエルはキーホルダーのついた鍵を俺に渡した
学校に向かって歩き話していると徐々に校舎が見えてきた
「あれが遠野 志貴がいる学校ですか?」
「彼だけじゃないですよ」
「えっ?」
「君もこれから通う学校です」
笑顔で言うシエルに俺はなんとなくこのままこの町で暮らしてもいいかもしれないと心のどこかでそう思っていた
毎日が同じことの繰り返しの俺のいた世界
それに比べ吸血鬼やそれを退治する教会の人間、そして人間離れした人達が住むこの町で暮らしたほうが毎日が楽しいのかもしれないと
「ほらほら君、行きますよ!」
ボーッと校舎を見上げる俺にシエルが笑顔で腕を掴み校門まで引っ張り走った
「これから転校生を紹介する」
教室の中でざわめく音が聞こえた、転校生が自分のクラスに入るのはちょっとしたイベントだし無理もないか
俺はある教室の廊下にいた、ここで待つようにクラスの担任に言われたからだ
1度も転向などしたことのない俺は少し緊張していた
「、中に入れ」
担任に言われ教室の扉を開けた
ガラッ
ゆっくりと扉を開けると中には満席に近いほどのクラスの生徒が俺を見ていた
そこには俺が見たことのある生徒が3人いた、そしてその中には
(遠野 志貴、本当に会えるとは夢にも思わなかったよ)
窓際にいる遠野 志貴と目があまり合わないよう一瞬だけみると教卓まで歩いた
「それじゃあ黒板に名前を書いてから自己紹介を」
これから担任になる男の言葉に1度頷くと黒板に名前を書き自己紹介をした
「と言います、これからよろしくお願いします」
軽い挨拶をして頭を下げると多少だが手を叩く音がした
「の御両親は海外で出張中だそうだ、そのためは親戚の家に泊めていただいているそうだ」
それから数分の間、俺の嘘の情報を先生は語っていた
まぁ、海外出張は当たっているが親戚の家に泊まっていると言うのは嘘だ。シエルの暗示は見事に効果があったみたいだ
「それじゃあは窓際の一番後ろの席に座ってくれ」
先生は俺の方をポン、と軽く叩き1つ空いている席に指で教えた
「教科書はまだ…だよな?」
「はい、手ぶらで構わないと言われたので何も持ってきてないのですが」
家を出る時にシエルが「そのままで構わないですよ」と言った、本当にいいのかは知らないが
「それでいい、教科書や鞄は学校のほうで準備してある。制服も明日には学校に届くから今日と明日はその服装でいてくれ」
「はい、分かりました」
先生の話を聞き終えると俺はこれから何日かの間の自分の席に座った
キーンコーンカーンコーン
ホームルームが終わり一時間目が始まるまでの少しだけの休憩時間になった
「、悪いが1、2時間目の休み時間に教科書を職員室から取りにきてくれ」
「分かりました、行きます」
空っぽの机、他の生徒とは違う制服…明らかに浮いてるな俺の存在
溜め息を吐き窓から空を眺めていると窓のガラスに人が映っていた
「あの、くん?」
そこ1人の女子生徒が立っていた
「あっ、はじめまして。わたし弓塚 さつきっていいます」
笑顔でそう自己紹介をした
弓塚 さつき、月姫のキャラクターの1人でストーリの内容によっては遠野 志貴に殺される女子生徒だ
(…なんだか話しづらい、彼女の先は決まっている。遠野 志貴に殺されるか教室から家出として扱われて姿を消すかのどちらか)
そう、ゲームの中では彼女は不幸の少女として月姫のキャラとして登場しているのだから仕方ないかもしれない
「それじゃあ、困ったことがあったら相談してね」
何気ない会話を少ししてから彼女は笑顔で立ち去り自分の机に戻った