次に目を覚ました時には目の前が真っ暗だった

近くに時計があったので見てみると10時を少し過ぎていた

(まだ10時を過ぎたばかりなのに誰もいない)

確かに10時と言えばあまり人は歩かない時間帯だが、こうも人がいないと逆に不気味にみえてくる

「そうか猟奇事件であまり人通りのない場所には寄りつかないのか」

この場所に来てすぐに見た大型テレビでこの町の近くで殺人事件が起きたとアナウンサーが言っていたことに気がついた

(俺もこの場を離れた方が…)

その時だった、公園の草むらからガサッとなにか物音が聞こえた

(嫌な予感が…)

猫や犬にしては大きな物音に俺は音のする方に目が釘付けになった

ザッザッザッ

なぜか草むらとは逆から靴を地面にひきずるような音が聞こえた、その音は俺に近づいているのが分かった

近づく物音に気になってしまい後ろを振り向いた

「なっ!?」

そこには男性が立っていた、ただその顔は血が通っていないかのように色白すぎる顔色で表情もどこかおぼつかない

(まともなじゃないぞこいつ)

なんとかその場から離れようと後ろを向き走ろうとした時だった

ドン、と俺の顔になにかがぶつかった。その拍子に俺はその場に倒れた

「もう1人いたんだっけ」

目の前に大柄な男性が立っていた、この男も後ろの男同様に色白過ぎる顔色にありえないことに白目と人間ではなかった

多分この男は草むらから出てきたのだろう足元に葉や枝がくっついていた

(前と後ろに化け物、助けを呼ぶにも人がいない)

助かる方法をみつけようにも考える時間がなかった。目の前の男が俺の首をゆっくりと両手で持ち上げたのだ

「ぐっ」

男の力は強く俺の足は地面から離れ浮いた状態になっていた

(死んじゃうな…まった、俺は死んだらどうなるんだ?)

夢の中で死ぬ、悪い夢が終わり目が覚めたときにはもいつも見慣れている自分の部屋にいるのだろうか

それとも本当にこの町で吸血鬼になるかそれとも身元不明で誰もいない葬式でもするのだろうか

なぜかピンチの場面と分かっているのに恐怖は感じなかった

「いいよ、殺してみろ化け物」

目をつぶり最後の時を待っていた、がその瞬間はあっというまだった

ガチン

なにか杭のような硬いものが地面に刺さったような音だった

「つっ、いったいどうしたん…て、これ」

突如持ち上げられていた力が消え地面に落とされた

その衝撃に驚き目を開るとそこには1つの剣が地面に刺さっていた

(剣…だよなこれ、じゃあもしかして)

ガギッ、後ろから小さな火花が散った

火花の先には1人の神父のような格好をした少女が俺のほうを向いていた

(間違いない、彼女だ)

見覚えのある公園、突然襲ってきた化け物、そして神父のような姿をした少女…やっぱりここは

「何を考えているんですか?」

「おわっ!」

考え込んでいる俺の目の前で彼女が話しかけてきた

「あっ、助けてくれてありがとうございました」

「いえ、一般の方を助けるのもわたしの役目ですから」

「そうなんですか…それじゃあ俺はこれで」

無表情の彼女を置いてこの場所から逃げようとしたが身動きができない

(もしかして…あ〜、やっぱり)

俺の影に1本の剣が刺してあった、この剣を抜けば動けるようになることを俺は知っていたが抜こうにも手が届かない

彼女の名前はシエル、教会の人間でこの猟奇事件を解決させるために来た女の子だ

「あれ、動かない」

演技だとバレバレの俺の芝居をシエルはやはり無表情で見ていた

「…なにか喋ってくれませんか?」

無表情のシエルにしびれをきらせ俺の方から話した

「おかしいですね、あなたはどこか普通の人達と少し違う気配を感じます」

ギリッと剣をいつの間にか両手に握り締めていた

「ちょ、ちょっと待った。俺は吸血鬼なんかじゃ」

「吸血鬼?」

しまった、聞いてもいないのに吸血鬼だと言ってしまえば普通の人なら軽く流すけど彼女の場合は

「え〜とですね」

ダメだ、明らかに睨んでいるぞ彼女。吸血鬼を殺すのが役目なんだからこの言葉は言わなければよかったかも

観念して俺はその場に座りシエルに話そうと思った、もしかしたら俺がこの場所に来たことを彼女は分かるかも知れないからだ

「1つ…話してもいいですか?」

真剣に彼女に話すと彼女の手に持っていた剣はいつの間に消えていた

「どうぞ話して下さい」

「この町…いやこの世界の人間なんかじゃないんです俺は」

「は?」

そりゃそうだろ、いきなり目の前の男がこの世界の人間じゃないと言えば普通なら笑うか冷たい目線でみるかのどちらかだと思う

「俺は昨日までこの町ではない、自分の住んでいる町にいました。いつもと同じように自分の家で寝ました」

「…」

「そして起きたらなぜか三咲町に来ていたんです」

全てを話した、別に笑われようが冷たい目線で見ようが俺には関係ない。彼女が知りたい俺の情報はこれで全てだと思うからだ

「1つ質問があります」

「なんですか?」

「あなたがこの町の人間ではない、それは解りました。しかし、なぜわたしを見たときにあなたは「吸血鬼ではない」と言ったのですか?」

「それは…俺はあなたが何者か知っているからです」

その言葉に彼女は俺の影に刺してある剣を抜き後ろを向いた

「これいじょうの話しは結構です、早めにこの場所から離れたほうがいいですよ」

そう言って彼女は公園の出口に向かって歩いて行った

「ちょっと待った、確かに…普通なら信じられないかもしれないけど俺は知っているんだって!」

「…」

声を大きくして言うが彼女は無視をしてスタスタ足を止めずに歩いていた

「あんたがこの町の吸血鬼を殺しに来た教会の人間だってことも、あんたが死ぬことの出来ない体だってことも知っているんだ!」

何年ぶりだろう、これほど大きな声をだしたのは

心臓が高鳴り呼吸が乱れたがそんなことより彼女が足を止め俺に近づいてきたことに嬉しかった

「なぜそのことを?」

「この町で起きること、それに町で起きることに触れる人物のことなら俺は知ってる」

「…そのお話し詳しく教えてくれませんか?」

「分かった、その代わり条件が3つある」

俺はその3つの条件をシエルに言うと彼女は頷いた、こうして俺は月姫の世界で生きていくことになった





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